「慰安婦問題」については、別に私が言わなくても、
きちんと整理した論の積み重ねがあるんだけれど、
でも、この問題、橋下発言があったりでなかなかホットさを失わない。
また、冷泉さんの記事のように示唆に富む意見も目に留まるしで、
ついぽろぽろ反応してしまう。
先日「はてなブックマーク」をうろついていて、
冷泉さんの、8月に先立つ二本の記事を見つけたので、
気になったことを前回の記事に追記した。以下は追記部分。
・「従軍慰安婦」が日本に問う「理念」
これまで書いたことと重複するけれど、
シリア・チュニジアの「性のジハード」と絡めて、もう少しだけ。
冷泉さんの、橋下発言に対する5月の記事で、注目したのがこの部分、
「国境を越えたコミュニケーションでは理念型の発信しか通用しない」
(橋下発言は理念じゃなく、ぶっちゃけ本音だからね)。
これは過去と現在の切り分けと同じく、
ものすごく大事なことではあるけれど、
ことの理解はけっこう難しいかもしれない、とも思う。
「慰安婦問題」において、「強制性はなかった」や、
「慰安婦ではなく単なる売春婦だった(だから問題ではない)」
などという主張に決定的に欠けているのは、まさに「理念」だ。
が、上記のように「主張」する人たちは、
自分は立派に(世界に)通用する「主張」をしていると
思っているのだろう。そう信じて突き進んでいる人が、
自分の「主張」が世界では通らないことを、
どのように呑み込むことができるのか。
(欧米)世界の「理念型」の主張はこうだ。
全ての売買春や人身売買は認められない。
「従軍慰安婦」は、過去から現代において非難されるべき一つの例だが、
「慰安婦」がたとえ「売春婦」であっても、問題は同様である。
また、実際に被害の声を上げている被害者には、
謝罪と補償がなされるべきだ。
これらを否定する社会は、売買春や人身売買を認める社会であり、
このような深刻な人権侵害は、とうてい許容できない。
「日本ももっと主張するべきだ」と言うときの主張は、
このような「理念型の発信」でなければいけない。
そもそも、「全ての売買春や人身売買は認められない」という「理念」に、
どのような「理念型」の反論ができるというのか。
それは、世界が近代から現代にかけて獲得してきた人権意識を、
根底から覆すことを意味する。
彼ら彼女らは、自分たちがこの勝ち目のない戦いに、
「理念」もなしに挑んでいるということが、わかっていない。
この問題が、日本だけのものでも過去のものでもないもう一つの例として、
ようやくマスコミにも出てきたシリアの「性のジハード」がある。
・チュニジアの少女「性の聖戦」シリア前線で慰安行為か (朝日新聞 9/28)
ネット上では今年の4月頃から指摘されていたらしいが、
もはや看過できないとチュニジア政府が動いたことが大きい。
イスラムでは夫婦以外の性交渉はご法度だが、
サウジアラビアのイスラム法学者が、アサド政権打倒を目指す「聖戦」を支えるため、短時間の「一時的な婚姻」を認めるファトワ(宗教令)を出したとも言われる。
シーア派には「一時婚」という男性に都合のよいものがあり、
それがエジプトでも行われた例を、以前読んだことがある。
「ムトア婚」というアラビア語は、直訳すると「快楽婚」だそうだ。
・エジプトのムトア婚(一時婚) (どこまでもエジプト )
この解釈を、「聖戦」に限定してスンニ派の一部が取り入れた、
ということなのだろうか。
が、そんな方便が通るはずはない。
まして、「20~100人の反体制派のメンバーと性的な関係」を、
「(一時であれ)婚姻」と言い逃れることはできない。
一方、チュニジアのイスラム教の前国家宗教指導者は「(少女の行為は)ジハードではなく単なる売春だ」と指摘。治安当局は8月、少女のシリア渡航にアルカイダ系のイスラム過激派の組織が関与しているとの見方を強め、掃討作戦を実施したという。
少女の両親の訴えに、
「(イスラム厳格派)サラフィー主義者が娘をシリアに連れ去った」
とあるけれど、国際社会はこれを、「慰安婦問題」と同様
人身売買や性的搾取といった、女性に対する人権問題と見るだろう。
朝日の記事がタイトルに、”「性の聖戦」…慰安行為か”、と掲げ、
時を隔てた二つの問題をシンクロさせている。
もうひとつシンクロするのは、その背景となる社会である。
このような行為を正当化する、女性に対する(無)人権感覚である。
正当化は、かたや「慰安婦」という言葉を生み、
かたや宗教によるむちゃくちゃな解釈で「一時婚」と呼ぶ。
だが、チュニジアのほうが一つだけ、ましな点がある。
前宗教指導者が「単なる売春だ」と言うのは、
「慰安婦ではなく売春婦だから問題ではない」と言っているわけではなく、
「売春(しかも強要され、管理されたもの)は犯罪だ」
という文脈で言っているのだから。
イスラム社会にも売買春はある。けれども少なくとも彼らは、
(この件に関しては)そのような実態をもって、
なされた行為の犯罪性を糊塗することはしていない。
チュニジアの前宗教指導者のコメントも、
イスラムの「理念」に基づいたものであった。
【付記】
イスラムは性について語ることにタブー感の強い社会なので、
この問題がどう進展するのか、規制がしっかりとされるのか、
また、少女たちの救済がどのようにされるのかなど、
気にかかることが多い。
もう一つ、この少女たちは、
自国のサラフィー主義者によって連れていかれたわけだけれど、
チュニジア以外で、同じことが行われていたりしないだろうか。
シリアの内戦には、レバノン、ヨルダン、イラク、トルコなど、
他のイスラム国からも、多数のイスラム厳格主義武装勢力が参戦している。